悔しい……悔しい。悔しさも冷め切らない中でブログ執筆に取り掛かっています。
待ちに待ったWEリーグの開幕戦。厳しい試合展開になることは予想されていたものの、完全敗北からのリーグ戦スタートとなってしまいました。
三菱重工浦和レッズレディース(以降、浦和レディース)は、主力である猶本・菅澤・安藤を、ベレーザ側は岩清水・小林里歌子を怪我で欠き、U-20W杯選出の影響で浦和レディースからは角田と岡村が、ベレーザ側からは昨シーズンに多く出番のあった土方や、今季からのブレイクが期待される怪我明けの氏原を含む、5名の選手がチームから離脱した状態でのスタートとなりました。
日程組として、W杯による影響で離脱者が多く出るかもしれないタイミングでこの大一番を当てることのセンスの無さを悲観しながらも、それでもリーグ制覇を占う大事な一戦であることに変わりはありません。
今シーズンの日程が発表された時点で、誰がみても大一番と一瞬で理解ができる大事なゲームでした。
ベレーザからすると再三言われているように、今シーズンの目標は誰がなんと言おうと「リーグタイトル」です。
そのために、この数年間のリーグ戦で1度も勝てていない浦和レディースに勝利することはもはや必須条件。以下の記事にも記載をしていますが、WEリーグ開幕をしてからのリーグ戦ではここまで一度も勝利がありませんでした。
せっかくなので、試合の振り返りも兼ねて展開を見ていきたいと思います。
この日のスターティングメンバーを見ていきましょう。
日テレ・東京ヴェルディベレーザ公式ツイッターアカウントより引用
リーグ戦のスタートのGKとしては野田になをチョイス。今シーズンはWEリーグカップから先発をしていますが、そこと合わせると3試合連続でのスタメン出場となりました。
また、DF陣には前試合がベンチスタートとなった坂部が先発。中央にはキャプテンの村松、そして新加入の三浦紗津紀が起用される形となりました。
中盤には木下とWEリーグカップ初戦からスタメンの座を掴んでいる岩﨑が先発出場。ウイングバックには右に山本・左に松田。シャドーの位置に木下と菅野が入り、ワントップに鈴木が入るような形でした。
この形自体は3試合を通して継続してのフォーメーションとなります。
前半
円陣の風景
ベレーザはWEリーグカップでも取り組んでいたように、可変式の3バックを採用。中央の村松・坂部・三浦の3枚をベースに、ウイングバックの松田や山本が降りてきて3バックの脇のスペースを埋める形を継続。
基本的には3バックがボールを持つと、中央にいる木下・岩﨑に当てながら相手の穴を探して展開をすることをベースに攻撃を組み立てます。しかし、浦和レディースはそのパスコースを完全に狙っており、中央の選手にパスを出した時には簡単には前を向かせないような守備を徹底。
浦和レディースは3バックの選手たちのパスコースを潰してから落ち着く暇を与えないプレッシングで自由を奪います。
そうしたプレスもあり、ベレーザがなかなかボールを前線に送り込め中、浦和レディースは中央のフィルターでボールを刈り取ると、柴田・栗島が中盤でゲームをコントロールしていきます。
栗島朱里
そして、攻めあぐねるベレーザを他所目に、前半の早い時間に縦に速い攻撃から、最後はDFの背後の潜り込んだ島田芽依が流し込んで浦和レディースが先制。ハイライトを見返すと、3バックの脇のスペースに上手く潜り込んだ島田の動きが見事でした。
浦和レディース先制シーン
リーグの運命を占う大事な一線は、なんとも早い時間にあっさりとした得点で試合の天秤が動くことになってしまいました。
対するベレーザはまだ1失点。時間はまだまだ多く残されているので、残った時間で逆転するしか術はありません。
しかし、5バックという性質上、押し込まれる展開からボールを奪ったとしてもカウンターに転じようとしても前線の枚数が少なく、なかなか攻撃を組み立てる事ができません。ベレーザは、今シーズンの特に狙った取り組みである「サイドからクロス」をベースにフォーメーションを組んでいるものの、中央で時間が作れなければサイドの選手が上がりきれず、なかなかクロスまでの展開に持ち込むことが出来ません。
ただし前述したように中央は完全に浦和レディースが狙っているため、そこで時間を使うのは難しく、ディフェンスラインからサイドに直接経由する形でなんとか前進しようとしますが、そこでも浦和の布陣的に2枚のサイドの選手をなかなか崩し切ることが出来ません。
そういった試合展開になると、どうしてもパスの出しどころに苦しんで前線に長いボールを入れることもありますが、ワントップの鈴木も浦和のCBを前になかなかキープをして時間を作ることも、シャドウの選手が前を向く形で落とすこともできずに、苦しい時間を過ごすことになります。
浦和レディースはパスコースを防ぐために高い位置からのプレスを仕掛けてくるため、重心が前を向いている相手に対しては前線に長いボールを入れて盤面をひっくり返したいところではあるのですが、なかなか上手く展開させることが出来ずに浦和の網に引っかかり続けてしまいます。
逆に浦和レディースとしては、ボールを奪うと縦に速い攻撃をしかけてきます。トップ下のような位置にポジショニングをしている塩越や、ワントップに起用されている島田はワンタッチ・ツータッチのコンビネーションでゴールに迫ります。そのため、ウイングバックもなかなか前進できず、守備に追われる時間が長くなり、カウンターに転じようとも前線の枚数が足りないという悪循環が続きます。
そうした苦しい守備を続ける中でベレーザのセンターバックである三浦にイエローカードが提示。この試合で1人を欠くことは勝利を手放すようなことになるため、すぐさま選手交代。なんと前半の35分頃から眞城美春を投入するための準備を進めます。
眞城美春をシャドウに、松田と北村がそれぞれポジションを一つずつ下げる形となりますが、構造上の問題はどうにもならず、結局前半は0-1でリードされたまま折り返しとなります。
明らかな戦術のミスマッチに対して、どのように対策をするかはハーフタイムに監督に問われる技量でもあります。
後半
ベレーザの布陣チェンジは無し。同様の形でスタートになりました。
後半開始をしてすぐに島田からの見事なパスに反応した塩越に早速チャンスを作られてしまいましたが、ノーゴールに終わりなんとか一命を取り留めた形に。
逆にベレーザもサイドにポジションを移した北村がチャンスを作ります。前半から再三高い位置を取っていた浦和レディースCBである高橋はなの裏のスペースに見事なスルーパスを通し、それに反応した鈴木陽がロープレッシャーの中でシュート。しかし、そのシュートは虚しくもGKに止められてしまいスコアを振り出しに戻せません。
ベレーザとしてもやや重心を前線に向けたことで、少しずつ高い位置からのボール奪取も増えてきて、攻撃も回り始めたかという後半12分、「前線にいかに人数をかけらるか」が得点に繋がると考えている松田監督の考えとは裏腹に、得点には結び付くどころか、むしろ人数が少なくなったディフェンスラインを突かれてカウンターから失点。
クロスに対して飛び出した野田になは一度はボールを止めるものの、無常にも一度触ったボールをそのままトラップされてしまい不運な形での失点となりました。これで0-2と絶体絶命の状況に。
ついに、ベレーザベンチは動きます。ここ3試合でいまだ得点が奪えていない鈴木陽を下げて、青木夕菜を右サイドに投入。右サイドを担当していた山本柚月はそのまま前線に入ります。
すると、すぐに木下桃香から縦に速いスルーパスで山本柚月が前線にボールを持ち出し、右サイドを駆け上がってきていた青木がクロスをあげると、惜しくもポストを叩く形にはなったものの、ここまで攻めようがなかったベレーザの攻撃が一気に活性化します。
その後は、中央でのボールキープから菅野奏音が左足を振り抜くも惜しくも枠外。
その後はピンチ・チャンスはそれぞれありながらも、スコアは動かずにタイムアップ。リーグ制覇に向けて大事な試合であった浦和レディース戦を完敗という形で迎えてしまい、リーグ順位は最下位という最悪のスタートで24-25シーズンの幕開けからスタートしてしまうことになりました。
何が悪かったか?
チーム内部の事情、指揮官が考えること、選手が考えることなど、そういった正しい話は内部の人間にしか分からないので、あくまでブログを書いている立場ということを利用して私的な意見を書くと、3バックにこだわる理由がいまいち分からない(それが悪いのではないか)というのが私の意見です。
3バックは基本的に3枚のDFの脇にウイングバックが下がることで守備時に5バックを形成して、攻撃時にはそのウイングバックが前に出ることで攻撃の枚数を増やすことができるので、守備でも攻撃でも有用だよねというのがベースの考え方です。そのため、かつてはJ2ではこの3バックを持ちいた「3-4-2-1」という形で、1トップの頂点に圧倒的な個の質でボールをキープできる選手を配置して、時間を作りながら攻撃に枚数をかけて、守備にも攻撃にも人数をかけられる有効な戦術として時代を席巻しました。
その反面で、押し込まれる形になった時にはウイングバックが常に後ろに降りて5バックのような形となってしまい、1トップで配置している選手が時間を作れたり、1人で状況を打開できるほどの圧倒的な個の質を有していなければ成り立たない戦術でもありました。そのため、どうしても人件費にお金をかけられないクラブが最短で勝つための手段として「弱者の戦術」とも呼ばれていました。
昨年まではINAC神戸レオネッサも、田中美南を頂点に置く形でこの戦術を採用していました。WEリーグの中では圧倒的な能力を持つ万能型の田中美南がいることでその形が成り立ち、昨シーズンも2位でフィニッシュの好成績を納めることに成功しました。
しかし、いまベレーザには前線のワントップで圧倒的な個人の質を担保できる選手はいません。言い換えると、時間を作り、自分で運び、自分で状況を打開してシュートまで決められる選手はいません。
そして、国内ではあまりにも優秀なウインガーたちを多数かかえていながら、彼女らを守備に走らせるようなウイングバックのポジションに当てこむのはあまりにも軽率に見えます。
また少し話は変わりますが、試合後のコメントで木下桃香は以下のようにコメントしています。
ー対戦相手の浦和についての感想を教えてください。
強かったです。技術面やフィジカル面もそうですが、1番は戦術的な面で相手の力を感じました。
(日テレ・東京ヴェルディベレーザ公式サイトより引用)
選手たちがピッチの上で「戦術的な面で相手との力を感じた」とコメントしている状況ははっきり言って異常だと思います。3バックをやめろと言いたい訳ではないですが、もっと選手たちの個性を活かした起用方法があるのではないかと思います。
次回はまたリーグ戦が続くので、熊谷で会いましょう。
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